点線。破線。 

いちサバイバーの思ったこと、考えてることのキロク。

パパとの電話。

 

 

毎日を
ただゆらゆらと漂っていた
わたしを左へ向かわせるのはあなたの怒り
わたしを右に向かわせるのはあなたの拳

痩せていくことも
増え続ける傷も
あなたを止められることは無かった

リノリウムの床に座り込んで
押し付けがましいほどのピンク色の壁にもたれて
父に電話をかけた

わたしはテレホンカードと本をパパに頼んだ
わたしは2日に1度1000円をナースセンターで受け取れるけれど
でも元々お金を殆ど預けていないの
だって手元に無かったから

そこはパパの仕事の通り道になるから
だから必要なものがあったら電話してきなさい
合間をぬって、持って行くよ

そう言ってパパは
たくさんの数のテレホンカードと
わたしが欲しいと思っていた本を買って
いやに白いあの部屋に持って来てくれた

眠れているのか?とパパは聞いた
眠前薬を夜8時半に飲むの
それでも眠れない時は、夜中の11時に
追加薬を出してもらいにいくの

困ったことがあったら、すぐに電話してきなさい
仕事中ででられないかもしれないけれど
その時は留守番電話に入れなさい

ねえパパ困ったことが
困っていることがあるの
あのねわたし あの人が恐いんだ
一緒に居るのが恐いんだ
ここに来るまでずっと誰にもちゃんと言ってなかったけど
わたし あの人に殴られた
わたし あの人に首を絞められた
それがものすごく恐かった
今もまだ恐い どうしたらいい?

パパはわたしを見ないで言った
若いからね
そうなの?
そういうもんだ
そう言ってパパは
また何かあったら電話しなさい
会いに来るからと帰っていった

ねぇパパ パパはどうしてもうママと暮らせないの?
パパは困ったように言った
パパも頑張ってはみたんだ
でもママはママのことだけが大事な人だ
もうパパはママにはついていけない
だからもう一緒に暮らせないよ

でもわたしから見ればパパも勝手だよ
パパは謝らなくちゃいけない
おばあちゃんに ママに
どうして謝ろうとしないの?
隠していた事 嘘吐いていた事
ちゃんと謝って

何度も何度もお願いしたけど
パパはそれだけは最期までしてくれなかった

でも
パパがあの時 病院に来てくれたこと
電話したら次の日には来てくれたこと
それは本当に嬉しかったの

もうわたしやっぱり死にたい
そう電話した時
馬鹿なことを言うなと怒鳴られた

それがパパとの最後の電話だった