点線。破線。 

いちサバイバーの思ったこと、考えてることのキロク。

私的セルフヘルプワーク、と、『つばさタイガー』。


ヲタっぽいことを書こうと思ったのではなくて。
単にあまりにもこの『つばさタイガー』が、私の中で大きかったので、整理。


実は原作を読んでいません。(スイマセン。だってあれ全部揃えたら総額幾らすんの!?)

化物語』というTVアニメを教えてもらい、気になってほいほい見てしまい。
戦場ヶ原ひたぎの過去がトラウマに直撃してのたうち回った。
・・・よかった。制作がシャフトで。回想シーン、生々しかったらもうマジで死んでた。

「重し蟹を私がちょっとお借りしたいのだけれど、どうですかね?」と思ってしまった。

色々、自分が痛い思いをするのだが、でも、ああ、なるほど、と自分に投影できてしまうことが多々あって面白いので見てしまう。
忍野メメさんを生活圏内に呼び寄せたい。むしろ来て下さい。


ネタバレ(?)ありです。

この「物語」シリーズ、高校生数人と、その周りで起きる・または巻き込まれた妖怪(怪異)のお話。
Wiki先生はこちら。


羽川翼は、自死遺族であり、機能不全家族に育ち、虐待(ネグレクトが主か?)を受けている。
家族は全員血のつながりがなく、現在同居している父と母も、家庭内離婚状態。

そして私にはとてもわかりやすいと思えたのは、「完璧な、理想的な良い子」の姿、優等生を維持していること。

羽川翼の物語は、「つばさタイガー」の前に、「つばさキャット」というお話がある。
「完璧な、理想的な良い子」ならそうするのが正しいであろう、車に轢かれた野良猫を埋葬する行為によって「猫」に憑依され、その「猫」になった時、自分の生い立ちや環境に対するストレス発散のため、何もかも壊しまくる。
裏人格、暗い部分、ということで、「ブラック羽川」と作中で呼ばれる。
羽川翼の中で消化しきれないストレスが膨れ上がったときに、「ブラック羽川」は現れる。
だが、裏人格も羽川翼自身である、という解説も作中でなされる。

つばさキャットは本当にわかりやすいお話だった。
特にDID(解離性同一性障害)の症状が顕著だったころの私を思い返すと、あまりにも納得がいきすぎるお話であった。

私自身、カウンセラーに言われた、というのもあるけれど、DIDにおける別人格的なもの、を、私は私の一部としてみてきた。今もそうだ。
時々、バカッと分かれてしまうだけで、大元の私であることに変わりはない。
性格や考え方の極端な部分が、そのとき、そのときに顕著に出るだけ、だと捉えて生きてきた。

なので、「つばさタイガー」の中で、再びブラック羽川になった羽川翼と、羽川翼にしか見えず、かつ羽川翼自身にしか対処できない「虎」の怪異との遭遇、は、私が私自身を受け入れ、認め、私が私であることを良しとしようとしている日々と、リンクしているように感じて面白かった。

この自分のことを自分でどう受け止めるのか、どう受け入れるのか、どう捉えなおすのか、の作業は、他者の介在が多少必要ではあっても、基本的に自分自身でしか出来ない。

他社の介在、は、羽川翼の場合、家庭内離婚状態だった両親が、自分を置いて再び関係を再構築しようとしていることに気づいてしまい、それに対する「嫉妬」を覚えた部分だ。

しかも羽川翼は、その「嫉妬」という感情を自覚するのにかなり時間がかかっている。
色々な立ち位置にいる登場人物からかけられた言葉によって、自問自答して、はじめて自覚する。

自分が生み出した「虎」によって家が全焼し、親が当座の棲家を見つけるまでの間、羽川翼は、以下の家を転々とする。

そして転々とすることで、羽川翼が無自覚であった「嫉妬」という感情と、火事・虎の怪異の正体が解かれていく。

*戦場ヶ原ひたぎの家
  母親の暴走によって性暴力被害にあい、両親の離婚、自己破産を経て、父と2人で暮らす、阿良々木暦の恋人。
 私ははじめ、ひたぎに対する嫉妬=虎だと思っていた。
 翼の両親についての描写が見当たらなかったからというのもあるが。

 ひたぎと翼の会話の中で、白くて白無垢で白々しい、がリピートされるところ。
 また、食べ物・食事についての好みを例にして、
ひたぎの台詞
 『いえ、羽川さんは好みとは言えないかもしれないわ。だって、なんでもどれでも好きなんじゃあ、どれもおんなじみたいなものだものね。』
何でも好き、何でもいい、は、実は自分の意志のようなものが反映されていない。
私もそう思うので、このひたぎの台詞はとても共感できた。


*阿良々木暦の家
  片思いしている少年の家。両親が警察官。
  阿良々木 母の台詞

『家族はいなきゃいけないものじゃないけれど、いたら嬉しいものであるべきなんだ。私はそう思うよ。母親としては。』

『人は嫌なことがあったらどんどん逃げていいんだけれど、目を逸らしているだけじゃ、逃げたことにはならないんだよ。きみが現状をよしとしている限り、外からは手出しができないんだから。』

実際、虐待だと思われるナニカがあっても、子どもであれその親であれ、困っている人が実際に存在しなければなかなか公的機関を含む第三者は動けない。

羽川翼が「私の親のことで、私は困っている。助けてほしい。」と自覚し、SOSを出さなければ、周囲は動きようがないのだ。まさに目を逸らしているだけでは、だ。


* 学校へ向かう道で出会う臥煙伊豆湖の台詞
 
『きみは例外じゃない、きみは特別じゃない。そういわれると嬉しいんだろう?』

 この「うちの家はおかしくなんかない」という考えに、私も長いこと呪縛されていた。
 うちは問題がある家、と気づいたところで自分がどうにかできる範囲を超えていた。
 あの無力感を思い出させる言葉。かなりゾッとした。


ひたぎは、父親と良好な関係を築いていた。だから、羽川翼は嫉妬し、嫉妬の炎(虎)で、ひたぎ達の住むアパートを燃やそうとしていた。

阿良々木家でも、良好な家族関係、そして良好なきょうだい関係があった。だから、羽川翼は嫉妬し、嫉妬の炎(虎)で、阿良々木家を燃やそうとしていた。

 

『虎』が、自分の嫉妬が生み出した怪異であり、また、再びブラック羽川になっている時間があることに気づいた羽川翼は、ブラック羽川=自分自身に手紙を書くことにする。

それも、もう一人の新たに生まれた自分である、『虎』についての「お願い」を書くのだ。

《私は、本当はあなたにこんなことをお願いできる立場ではないのですが、しかしこのままでは、私は私の大切な友人を傷つける結果になってしまいそうなのです。
 あなたに頼るしかありません。あなたしか頼れる相手がいません。だから生まれて初めて誰かに言います   助けて。助けてください。私を助けてください。》

《あなたがストレスの権化だと言うのならば、苛虎は嫉妬の権化です。》

 《ブラック羽川さん。本当に、これが最後のお願いです。辛い役目を押しつけるのはこれが最後です。
 私達のもうひとりの妹を、助けてあげてください。家出中で火遊びに夢中の、まったく手の焼ける妹ですが、私は彼女の帰りをいつまでだって待ち続けます。
 私はあなた達を愛し、私を愛します。》
 

あまりにも正しすぎる手紙の内容だけれど。
自分自身と向き合うために、そして日々の中で感じそびれてしまった感情や感覚、当時の私の周囲に居た人々、そして当時の私に向けて手紙を書く行為は、セルフヘルプであり、グリーフワークだ。

まさか、私が少しでも見知った、この手段を、作業を、儀式のようなものを、こんな形で目にすることになろうとは思わなかった。

驚いたと同時に、これはきっと、何らかのサバイバーでなくても、PTSDを抱えていなくても、皆、どこかでやっていることなのかもしれない、と思った。

これもまた、伊豆湖の言う、『きみは例外じゃない、きみは特別じゃない。』という安心感かもしれないが。

トラウマは妖怪や怪異のようなものだ。
実際、そこにあるのだけれど、そこにあると分かる人が、分かり合える人が絶対数としては少ないと感じる。
だからこそ意識化したくない。目を逸らしたい。逃げたいと、思う。
でも現実的には、当人にとっても、その周囲の人にとっても、本当に厄介で、如何ともしがたいナニカだ。

ただの文章で「自分を大事にしましょう」といわれるよりも、このオハナシを知ることの方が、私には、とても分かりやすかった。

そうだ。私は、私に。私の影にいる、昔の私に、たくさんの私に、手紙を書き続けている。
これは、自分以外の誰にも頼めない、自分のための、昔の私のための、必要な儀式なのだ。

羽川翼が、自分自身になって、阿良々木暦に告白し、ふられる。
そのシーンがあまりにも嬉しかった。悲しかった。ああ、これでいいんだ、そうか、と思えた。

この『つばさタイガー』は、専門書的なあれこれを読みすぎて訳が分からなくなった人に、そして薬ではもうどうにもならない人に、【よく効くオハナシ】だと思う。

うーん。これ、DVD欲しいけど高いよorz